2026.07.22

第3章

パッシブサポートへ移行する姿勢②

スウェイバック姿勢

まず最初に質問です。

患者さんが立っている時、

腰がほとんど反っていない。

お腹が前へ出ている。

骨盤が前へスライドしている。

胸が落ちている。

こんな姿勢を見たことはありませんか?

これが

Sway Back Posture

です。

一見すると

「猫背」

に見えます。

しかし実際には

猫背とは全く違う生体力学が起きています。


スウェイバックとは何か

多くの教科書では

「骨盤後傾」

とだけ説明されています。

しかし

それだけでは全然足りません。

実際には

身体全体の重心戦略が変わっています。

例えば正常では

耳

↓

肩

↓

股関節

↓

膝

↓

外果

ほぼ一直線になります。

筋肉は

小さな修正だけ行います。

しかし

スウェイバックでは

頭 前

↓

胸郭 後方

↓

骨盤 前方

↓

股関節 前

↓

膝 過伸展

という

ジグザグになります。

すると

身体は倒れません。

むしろ

立つのが楽になります。


なぜ楽になるのか

ここが非常に重要です。

通常

立位では

股関節の前に重心があります。

つまり

身体は前へ倒れようとします。

これを止めるために

大殿筋

ハムストリング

腹筋

多裂筋

などが

少しずつ働きます。

つまり

Active Supportです。


ところが

骨盤を5cm前へ出すと

何が起きるでしょう。

重心は

股関節の後ろへ移動します。

すると

身体は後ろへ倒れようとします。

ここで

筋肉ではなく

股関節前面の靭帯

が張ります。

つまり

筋肉

↓

靭帯

へ役割が変わります。

これが

Passive Supportです。


股関節では何が起きているのか

ここを理解すると

運動療法の考え方が変わります。

股関節前方には

非常に強い靭帯があります。

例えば

腸骨大腿靭帯

人体で最も強い靭帯と言われています。

約350kg以上に耐えるとも報告されています。

本来は

股関節が伸びすぎないよう

ブレーキをかけています。

しかし

スウェイバックでは

立っているだけで

この靭帯が張ります。

つまり

筋肉を使わなくても

身体が止まります。

脳からすると

最高の省エネです。


腹筋は本当に弱いのか

ここで

よくある誤解があります。

患者さんを見ると

お腹が前へ出ています。

すると

「腹筋が弱いですね。」

と言われます。

しかし

EMG研究では

スウェイバックでは

腹筋活動が低下することが報告されています。

つまり

弱いというより

使っていません。

これは

非常に大きな違いです。

筋肉が弱いから

使えない。

ではなく

使わないから

弱くなる。

順番が逆なのです。


腰では何が起きているか

ここも重要です。

スウェイバックでは

腰椎前弯は

減少します。

すると

脊柱起立筋の活動は減ります。

患者さんは

「腰が張っています」

と言います。

しかし

実際には

腰部起立筋は

そこまで活動していません。

代わりに

負担を受けるのは

  • 胸腰筋膜
  • 棘上靭帯
  • 棘間靭帯
  • 胸腰移行部

です。

つまり

腰を支えているのは

筋肉ではなく

結合組織になります。


クリープはここから始まる

ここで

前回の

クリープ現象

につながります。

例えば

8時間

立ち仕事をします。

筋肉なら

休めます。

しかし

靭帯は

休めません。

ずっと

引っ張られています。

すると

コラーゲン線維は

少しずつ伸びます。

これが

クリープです。


なぜ夕方になると腰が痛いのか

ここで臨床とつながります。

午前中

問題なし

午後

少し重い

夕方

腰痛

この患者は

非常に多いです。

なぜでしょう。

筋疲労だけでは

説明できません。

実際には

一日中

靭帯へ

荷重がかかっています。

クリープが進みます。

さらに

固有感覚受容器の感度が落ちます。

すると

筋肉の反応が

さらに悪くなります。

つまり

夕方になるほど

筋肉が働かなくなります。

悪循環です。


膝では何が起きるか

スウェイバックでは

ほぼ必ずと言っていいほど

膝過伸展が起こります。

なぜでしょう。

答えは簡単です。

筋肉で止める必要がないからです。

通常なら

大腿四頭筋が

膝を支えます。

しかし

膝を完全に伸ばすと

関節がロックします。

さらに

  • ACL
  • PCL
  • 後方関節包

へ荷重が移ります。

つまり

また

Passiveです。


「立っているだけで疲れる人」と「疲れない人」の違い

ここで面白いことがあります。

スウェイバックの患者さんは

「立つのが楽」

と言う人もいます。

しかし

夕方には痛い。

逆に

アスリートは

筋肉を使って立っています。

立つこと自体は少し疲れます。

しかし

慢性痛は少ない。

つまり

疲れる姿勢が、必ずしも悪い姿勢ではありません。

筋肉は疲労から回復できます。

一方、

靱帯や関節包は、長時間の伸張によるクリープからの回復に時間がかかります。

「楽だから」と無意識に選んでいる姿勢が、実は組織への負担を積み重ねていることがあるのです。


あかつき鍼灸整骨院の考え方

スウェイバック姿勢では、硬くなっている筋肉だけを緩めても、身体は再び「楽な姿勢」を選びます。

その理由は、脳が「筋肉を使う姿勢」ではなく、「靱帯で支える姿勢」を学習してしまっているからです。

そのため当院では、

  • 硬くなった筋膜や筋肉の柔軟性を改善する
  • 股関節や体幹の安定筋が再び働けるよう運動療法を行う
  • 「筋肉で支える姿勢」を身体に再学習させる

ことを重視しています。


次回予告

次回は**反り腰(Lumbar Lordotic Posture)**です。

一般的には「反り腰=筋肉が硬い」と説明されることが多いですが、実際には反り腰もパッシブサポートへの依存が強い姿勢です。

腸腰筋・腸骨大腿靱帯・前縦靱帯・椎間関節・腹筋群・多裂筋がどのように役割を分担し、なぜ腰痛や脊柱管狭窄症、椎間関節性腰痛につながるのかを、生体力学と臨床を結びつけながら詳しく解説します。