2026.07.22

第5章

パッシブサポートへ移行する姿勢④

膝過伸展(Genu Recurvatum)

患者さんに

「膝を真っすぐ伸ばしてください。」

と言うと、

ほとんどの人は

真っすぐではなく、さらに後ろまで伸ばします。

本人は

「普通に立っているだけ」

と言います。

しかし実際には

膝は5〜15°程度過伸展しています。

これが

Genu Recurvatum(膝過伸展)

です。


なぜ膝は過伸展したくなるのか

まず考えてみます。

立っている時、

身体は常に前後へ揺れています。

この揺れを止める方法は二つあります。

①大腿四頭筋を収縮させる

②膝をロックする

どちらが楽でしょう。

もちろん

②です。

脳は

エネルギー効率を優先します。


Screw Home Mechanism

ここで重要になるのが

**Screw Home Mechanism(スクリューホームメカニズム)**です。

これは膝が完全伸展に近づくと、

脛骨がわずかに外旋(または大腿骨が内旋)し、関節面が最も適合した位置に入り、靱帯が緊張する現象です。

その結果、

膝は”ロック”されます。

つまり、

筋肉で保持していた関節が、

骨と靱帯の構造で安定する状態へ移行するのです。

これは正常な生理機構です。

しかし問題は、

このロック状態で何時間も立ち続けることです。


ActiveからPassiveへの切り替え

膝が少し曲がっているときは

大腿四頭筋が働きます。

大腿四頭筋

↓

脛骨

↓

姿勢保持

しかし

完全伸展すると

状況が変わります。

骨同士

↓

靱帯

↓

関節包

で姿勢が維持できます。

つまり

筋活動は急激に減ります。

EMG研究でも、完全伸展位では大腿四頭筋活動が低下することが報告されています。


では、どの組織が張っているのか

ここを細かく見ていきます。

①後方関節包

最も大きくテンションを受けます。

膝が後ろへ反るほど

後方関節包は伸ばされます。

本来は

「これ以上反らないで」

というブレーキです。

しかし

立っている間

ずっと張り続けます。


②ACL(前十字靱帯)

ACLは

前方への脛骨移動だけでなく

過伸展も制御しています。

つまり

膝が反るほど

ACLへ負荷が加わります。

もちろん日常生活程度では断裂するわけではありません。

しかし

毎日

何万歩

何時間も

伸ばされ続けます。

これが

慢性的なストレスになります。


③PCL(後十字靱帯)

PCLも

膝の位置によって

張力を受けます。

ACLほどではありませんが

姿勢保持に参加しています。


④膝窩筋

ここが面白いところです。

膝窩筋は

ロックを解除する筋肉

です。

つまり

歩き始める瞬間

必ず働きます。

しかし

ずっとロック状態だと

歩き始めのたびに

膝窩筋へ負担が集中します。

そのため

歩き始めだけ

膝裏が痛い患者さんもいます。


「立つのは楽、歩き始めが痛い」

この患者さんは

非常に多いです。

立っている間は

筋肉を使っていません。

だから

楽です。

しかし

歩こうとすると

ロック解除が必要になります。

そこで

筋肉が急に働きます。

これが

最初の一歩だけ痛い

という現象につながります。


なぜ太ももの前が細くなるのか

ここも臨床では重要です。

過伸展の患者さんは

大腿四頭筋が細い人が多いです。

なぜでしょう。

筋トレ不足でしょうか。

もちろんそれもあります。

しかし

最大の理由は

使っていないからです。

身体は

必要ない筋肉を

維持しません。

つまり

Passive Supportへ依存するほど

筋萎縮が進みます。

これは

高齢者で特に顕著です。


高齢者で膝過伸展が増える理由

ここは少し仮説も含みますが、

私は臨床で非常に納得しています。

加齢すると

筋力が低下します。

すると

筋肉で立つのが疲れます。

脳は

もっと楽な方法を探します。

すると

膝をロックします。

つまり

筋力低下の結果として、さらにパッシブサポートへ依存する

という悪循環が起こります。

これが

「高齢者ほど膝過伸展が増える理由の一つ」

ではないかと考えています。

もちろん、神経疾患や靱帯の弛緩性など、他の要因が関与する場合もあります。


足関節にも影響する

膝だけでは終わりません。

膝が過伸展すると

身体は後ろへ倒れそうになります。

すると

足関節は

底屈方向へ寄ります。

これを止めるため

今度は

足部の靱帯が働きます。

つまり

また

Passive Supportです。

だから

膝過伸展の人は

開帳足

偏平足

足底腱膜炎

とも関係してきます。

これは後の章で詳しく説明します。


「膝を少し曲げて立ってください」が難しい理由

患者さんに

「膝を軽く緩めてください。」

と言うと、

多くの人は

10秒くらいしか維持できません。

なぜでしょう。

それまで靱帯がやっていた仕事を、

急に大腿四頭筋やハムストリングス、殿筋などが引き受けるからです。

つまり、

患者さんは初めて

「筋肉で立つ」

という感覚を経験します。

「先生、この立ち方、すごく疲れます」

と言われることがあります。

私はその時、

「その疲れは悪い疲れではありません。今まで休んでいた筋肉が、久しぶりに仕事を始めたサインですよ。」

と説明します。


あかつき鍼灸整骨院の考え方

膝過伸展の患者さんに対して、単純に「膝を曲げて立ちましょう」と指導するだけでは長続きしません。

なぜなら、

身体は”靱帯で立つ方が楽”だと学習しているからです。

そのため当院では、

  • 足部・股関節・体幹まで含めた姿勢全体を評価する
  • 硬くなった組織の柔軟性を改善する
  • 大腿四頭筋だけでなく殿筋や体幹筋も含めて、立位で働く運動を行う
  • 「筋肉で支える立ち方」を日常生活の中で再学習する

ことを重視しています。


ここからさらに面白くなる話

ここまで読むと、一つの疑問が出てきます。

  • 頭は項靱帯
  • 腰は前縦靱帯・椎間関節
  • 股関節は腸骨大腿靱帯
  • 膝は後方関節包

では、

足は何で支えているのでしょうか?

実は足部こそ、人体で最も巧妙にパッシブサポートを利用している構造です。

次章では、

偏平足・開帳足・外反母趾は、なぜ「筋力不足」だけでは説明できないのかを、足底腱膜、長・短足底靱帯、スプリング靱帯、ウィンドラス機構まで含めて掘り下げていきます。