第12章
痛みは身体が作っているのか、それとも脳が作っているのか
慢性痛を姿勢から考える
患者さんから
よく聞かれます。
「レントゲンで骨が曲がっているから痛いんですよね?」
これは
半分正解で
半分間違いです。
もちろん
骨折なら痛いです。
急性ヘルニアも痛い。
靭帯断裂も痛い。
しかし
慢性痛は
少し違います。
MRIで異常があっても痛くない人
これは
かなり有名な研究があります。
MRIを撮ると
症状のない人でも
椎間板変性
椎間板膨隆
ヘルニア
脊柱管狭窄
などが
非常に多く見つかります。
年齢とともに、その割合はさらに高くなります。
つまり
画像異常
=
痛み
ではありません。
これは現在では多くの研究で支持されています。
逆もあります
腰が痛い。
でも
MRIは
正常。
これも
珍しくありません。
すると
患者さんは
「原因が分からない。」
と思います。
しかし
原因がない
わけではありません。
画像では
見えないだけです。
痛みは警報装置
私は患者さんへ
火災報知器で説明します。
火事。
↓
煙。
↓
警報。
ここで
重要なのは
警報は
火ではありません。
つまり
痛みも
組織そのものではありません。
痛みは
脳が鳴らした警報
です。
痛みは脳で作られる
ここで
誤解しないでください。
「気のせい」
という意味ではありません。
例えば
足をぶつけます。
神経が
脳へ
情報を送ります。
しかし
痛みは
脳で
初めて作られます。
つまり
神経は
痛みを送っていません。
送っているのは
危険信号です。
Protect by Output
ここで
ロリマー・モーズリー
(Lorimer Moseley)
の考え方が出ます。
彼は
こう言いました。
Pain is an output.
つまり
痛みは
出力です。
入力ではありません。
これは
非常に大きな考え方の転換でした。
脳は危険度を計算している
例えば
紙で指を切る。
少し痛い。
しかし
同じ傷でも
料理中なら
気付かないことがあります。
逆に
暗闇で
何か触れた瞬間
大げさに痛く感じることもあります。
つまり
脳は
状況まで
計算しています。
なぜ慢性痛になるのか
ここから
本題です。
最初は
本当に
組織が傷ついています。
すると
痛みが出ます。
これは正常です。
しかし
何か月も
何年も
痛い。
ここでは
別のことが起きています。
中枢性感作
神経は
学習します。
最初は
100の刺激で
痛かった。
しかし
毎日
刺激が来る。
すると
神経は
敏感になります。
今度は
50で痛い。
↓
20で痛い。
↓
10でも痛い。
つまり
警報装置の
感度が
上がります。
これが
中枢性感作
(Central Sensitization)
です。
Passive Supportとの関係
ここで
ようやく
最初の話へ戻ります。
例えば
椎間関節へ
毎日
荷重。
↓
靭帯へ
毎日
荷重。
↓
自由神経終末。
↓
毎日
刺激。
↓
脳。
↓
警報。
最初は
小さい。
しかし
毎日。
毎日。
毎日。
すると
脳は
「ここ危険だ。」
と学習します。
痛みは身体を守っている
ここで
重要です。
痛みは
悪者ではありません。
むしろ
味方です。
脳は
身体を守っています。
つまり
「動かないで。」
という
メッセージです。
しかし守り過ぎる
問題は
ここです。
例えば
腰が痛い。
↓
動かない。
↓
筋肉弱る。
↓
Passiveへ依存。
↓
もっと痛い。
つまり
防御が
逆に
悪循環になります。
Fear Avoidance Model
ここで
非常に有名な理論があります。
Fear Avoidance Model
です。
流れは
簡単です。
痛い。
↓
怖い。
↓
動かない。
↓
筋力低下。
↓
姿勢悪化。
↓
さらに痛い。
つまり
痛みそのものより
怖さ
が
姿勢まで変えてしまいます。
私が臨床で感じること
患者さんは
よく言います。
「怖いので動かせません。」
私は
この言葉を
とても大事にしています。
なぜなら
その人は
筋肉ではなく
脳が
動きを止めているからです。
ここで
無理に
ストレッチ。
無理に
矯正。
私は
あまり好きではありません。
安心が治療になる
ここで
患者さんへ
必ず説明します。
「壊れているから痛いとは限りません。」
「今の身体は守ろうとしているだけですよ。」
すると
患者さんの表情が
変わります。
これは
プラセボではありません。
脳が
危険度を
下げ始めています。
Neuromatrix Theory
ここで
ロナルド・メルザック
(Ronald Melzack)
の
Neuromatrix Theory
です。
昔は
痛みは
傷から来る。
と思われていました。
しかし
彼は
違うと言いました。
痛みは
脳のネットワークが
作っています。
つまり
姿勢。
感情。
記憶。
睡眠。
疲労。
全部
関係します。
ここで私の理論とつながる
私は
ここまで
Passive Supportを
説明してきました。
でも
Passiveだけでは
痛みは
説明できません。
私が考えているのは
こうです。
第一段階
筋肉疲労
↓
Passiveへ依存
第二段階
クリープ
↓
受容器変化
↓
筋活動低下
第三段階
自由神経終末刺激
↓
脳学習
↓
痛み
第四段階
怖い
↓
動かない
↓
もっとPassive
つまり
姿勢は
慢性痛の
入り口
なのです。
私は「治療」はここから始まると思う
だから私は
患者さんへ
最初から
筋トレだけは
しません。
最初にするのは
安心です。
そして
呼吸。
↓
荷重。
↓
感覚入力。
↓
小さな成功体験。
脳が
「この動きは安全だ。」
と学習する。
ここから
運動療法が
初めて意味を持ちます。
ここでシリーズは一周しました
最初に
私は
こう書きました。
人間は
筋肉を使いたくない。
↓
Passiveへ逃げる。
ここまでは
生体力学でした。
しかし
今は違います。
本当は
脳が
「安全」
を選んでいました。
つまり
姿勢とは、安全戦略だったのです。
これは私自身、このシリーズを書きながら最も大きく考え方が整理された部分です。
でも、まだ最後ではありません
ここまでで
- 解剖学
- 生体力学
- 神経学
- 発達学
- 疼痛科学
がつながりました。
しかし、
あと一つだけ足りません。
それは
「運動とは何か」
です。
なぜ同じスクワットでも、
ある人は改善し、
ある人は悪化するのでしょうか。
なぜ「鍛える」より「学習する」方が重要な場面があるのでしょうか。
次章は最終理論です
第13章
運動療法とは筋トレではない
Motor Learningから考える本当のリハビリテーション
ここでは、
- Bernsteinの自由度問題
- Nikolai Bernsteinの運動制御理論
- SchmidtのSchema Theory
- Internal FocusとExternal Focus
- 差分学習(Differential Learning)
- 制約主導アプローチ(Constraints-Led Approach)
- エコロジカルダイナミクス
まで踏み込みます。
そして最終的に、
「なぜ『弱い筋肉を鍛える』だけでは姿勢は変わらないのか」
という、このシリーズ最大の問いに答えたいと思います。




