第8章
靱帯が筋肉を支配している?
固有感覚とLigamento-Muscular Reflex
患者さんによく聞かれます。
「先生、この筋肉、力が入らないんです。」
一般的には
- 筋力低下
- 神経障害
- 廃用
などを考えます。
もちろんそれもあります。
しかし、
MRIでも異常がない。
神経も正常。
それでも
働かない筋肉があります。
なぜでしょう。
実は
原因は
筋肉ではない
ことがあります。
靱帯はただのロープではない
学生時代、
私は
靱帯は
骨と骨をつなぐ紐
だと思っていました。
しかし実際は
まったく違います。
靱帯は
巨大な
感覚器
です。
靱帯には神経が大量にある
例えば
ACL。
昔は
「切れても縫えばいい」
と言われていました。
しかし
ACL再建術後でも
違和感が残る患者がいます。
なぜでしょう。
ACLには
大量の
機械受容器があります。
つまり
ACLは
膝の位置を
脳へ教えています。
四種類の機械受容器
ここから少し専門的になります。
① Ruffini Ending(ルフィニ終末)
特徴
ゆっくり反応します。
何を感じるか。
持続的な伸張
です。
つまり
今
どれくらい
靱帯が伸びているか
ずっと監視しています。
姿勢保持では
非常に重要です。
② Pacinian Corpuscle(パチニ小体)
こちらは逆です。
ものすごく速い。
動き始め
加速度
振動
これを感じます。
つまり
歩き始め
走り始め
方向転換
などです。
③ Golgi-like Receptor
筋肉にも
ゴルジ腱器官があります。
靱帯にも
似た受容器があります。
役割は
過剰な張力。
つまり
「危険!」
を知らせます。
④ Free Nerve Ending
自由神経終末です。
これは
痛み。
炎症。
化学刺激。
つまり
腰痛や
関節痛とも
関係します。
これらは何をしているのか
全部
脳へ送っています。
例えば
膝が少し曲がる。
↓
ACLが伸びる。
↓
Ruffiniが反応。
↓
脳。
↓
大腿四頭筋へ命令。
つまり
靱帯
↓
感覚
↓
脳
↓
筋肉
になります。
つまり
筋肉は
勝手には
働きません。
Ligamento-Muscular Reflex
ここで
重要な言葉です。
Ligamento-Muscular Reflex
(靱帯-筋反射)
簡単に言うと
靱帯が筋肉を動かしている
ということです。
もちろん
厳密には
神経を介しています。
しかし
考え方としては
これで十分です。
例えば足首を捻る
捻挫をします。
ATFL
(前距腓靱帯)
が伸びます。
炎症。
↓
受容器障害。
↓
脳へ情報減少。
↓
腓骨筋反応低下。
↓
また捻る。
これは
非常に有名です。
同じことが腰でも起きる
例えば
腰部。
長時間
座ります。
↓
後方靱帯複合体が伸びます。
↓
Ruffini活動低下。
↓
多裂筋活動低下。
↓
腰が不安定。
↓
さらに靱帯へ依存。
この悪循環です。
ここでPanjabi理論とつながる
前章で
三つのシステムを説明しました。
Passive
↓
Neural
↓
Active
でした。
つまり
Passiveが壊れると
Neuralも壊れます。
すると
Activeも壊れます。
全部
連鎖しています。
Arthrogenic Muscle Inhibition(AMI)
ここから
さらに重要になります。
これは
非常に有名な現象です。
日本語では
関節原性筋抑制
と言います。
例えば
膝に水が溜まる。
すると
大腿四頭筋へ
力が入りません。
なぜでしょう。
筋肉は
壊れていません。
原因は
関節です。
関節包が腫れる。
↓
受容器が変化。
↓
脳。
↓
筋肉を抑制。
つまり
身体は
「あまり動かすな」
と命令しています。
これは
防御反応です。
私は慢性姿勢でも同じことが起きていると思う
ここからは
私の仮説です。
論文として証明されているわけではありません。
しかし
臨床では
非常に説明しやすい。
例えば
毎日
8時間。
靱帯を伸ばす。
↓
クリープ。
↓
受容器感度低下。
↓
筋活動低下。
これは
急性のAMIほど強くありません。
しかし
慢性的な軽度AMI
のような状態が
起きている可能性があります。
だから
筋トレだけでは
戻らない患者がいる。
私は
そう考えています。
γ運動ニューロン
ここで
さらに神経へ入ります。
筋肉には
筋紡錘があります。
長さを感じます。
この感度を調整するのが
γ運動ニューロンです。
つまり
脳は
「どれくらい敏感にするか」
毎秒調整しています。
もし
靱帯情報が
変わると
γ系も変わります。
すると
筋緊張まで
変わります。
つまり
患者さんが言う
「勝手に力が入る」
「勝手に固くなる」
これも
説明できます。
マッサージで筋肉が柔らかくなる理由
ここで
一つ疑問があります。
筋肉は
そんな簡単に
伸びません。
では
なぜ
施術後
柔らかくなるのでしょう。
私は
単純に
筋肉が伸びたとは
思っていません。
むしろ
感覚入力が変わった
と考えています。
皮膚。
筋膜。
筋紡錘。
関節包。
これらへ
新しい刺激が入る。
すると
脳が
「もうそこまで緊張しなくていい」
と判断する。
つまり
神経学的に筋緊張が再設定された結果として柔らかく感じる場面も多いのです。
もちろん、筋温の上昇や組織粘性の変化など、機械的な要素も関与しますが、それだけでは説明できない即時変化も少なくありません。
だから私は運動療法を重視している
ここまで来ると
なぜ
運動療法が必要なのか
見えてきます。
運動療法は
筋力アップだけではありません。
受容器へ新しい感覚を入れている
のです。
毎回
正しい荷重。
正しい関節位置。
正しい筋活動。
これを繰り返します。
すると
脳は
新しいNormalを覚えます。
私は
ここが
リハビリの本質だと思っています。
次回は、この理論をさらに広げます
ここまでで
「筋肉」「靱帯」「神経」
はつながりました。
しかし、
まだ一つ説明できないことがあります。
それは、
なぜ身体は一部分だけではなく、全身が連鎖して姿勢を変えるのか?
です。
例えば、
- なぜ偏平足の人は猫背が多いのか
- なぜ頭部前方位の人は骨盤まで前へ出るのか
- なぜ肩こりの人に股関節の運動療法をすると改善することがあるのか
ここで登場するのが、
- 筋膜(Fascia)
- テンセグリティ(Tensegrity)
- Force Closure と Form Closure
- 運動連鎖(Kinetic Chain)
です。
私はこの章が、このシリーズの第二の核心になると思っています。
ここまで理解すると、「身体は筋肉や骨の集合体ではなく、全身が張力でつながった一つの構造体である」という見方ができるようになります。




