2026.07.22

第9章

人体は積み木ではない

テンセグリティ理論から姿勢を考える

もし

「人体は何に似ていますか?」

と聞かれたら、

多くの人は

骨格模型を思い浮かべます。

つまり

頭
│
頚椎
│
胸椎
│
腰椎
│
骨盤
│
脚

このように

上から積み木のように重なっているイメージです。

しかし、

これは解剖学の見え方であって、

生体力学の見え方ではありません。


本当はテントに近い

私は患者さんによく

キャンプのテントを例に説明します。

テントは

細い棒だけでは立ちません。

ロープを張ります。

 \ | /
  \|/
   ●
  /|\
 / | \

もし

一本のロープを切ると

反対側まで形が変わります。

人体も

これと同じです。


テンセグリティとは何か

テンセグリティ

(Tensegrity)

とは

Tension(張力)

Integrity(統合)

を合わせた言葉です。

建築家バックミンスター・フラーや彫刻家ケネス・スネルソンの構造概念として知られ、後に生物学者のドナルド・イングバー(Donald Ingber)が細胞や人体への応用を提唱しました。

簡単に言えば

骨は圧縮材

筋膜・靱帯・筋肉は張力材

という考え方です。


骨は柱ではない

ここが

面白いところです。

昔は

骨が身体を支えている。

と言われました。

しかし

実際には

骨だけでは

立てません。

筋肉を全部取ると

骨格は

崩れます。

つまり

骨は

張力があって初めて

位置を保てます。


筋膜は包装紙ではない

筋膜も

昔は

筋肉を包む膜

くらいにしか

考えられていませんでした。

しかし

近年の研究では

筋膜は

全身を

一枚のネットワークとして

つないでいます。

例えば

広背筋。

この筋肉は

胸腰筋膜へ続きます。

胸腰筋膜は

殿筋へ続きます。

殿筋は

大腿筋膜張筋や

腸脛靱帯へ続きます。

つまり

肩を動かすと

足まで

張力が変わります。


だから肩こりで股関節を診る

患者さんから

よく聞かれます。

「肩が痛いのに、なんで股関節を診るんですか?」

私は

この質問が大好きです。

なぜなら

ここで

テンセグリティを説明できるからです。

例えば

右股関節が

硬い。

すると

骨盤は

少し回旋します。

すると

胸郭も回旋します。

すると

肩甲骨の位置も変わります。

すると

僧帽筋へ

余計な張力がかかります。

つまり

肩は

結果なのです。


スーパーフィシャル・バック・ライン

ここで

トーマス・マイヤーズ
(Thomas Myers)

Anatomy Trains

が出てきます。

例えば

後面には

一本の大きなラインがあります。

足底腱膜

↓

アキレス腱

↓

腓腹筋

↓

ハムストリング

↓

仙結節靱帯

↓

胸腰筋膜

↓

脊柱起立筋

↓

項靱帯

↓

帽状腱膜

これは

完全に一本ではありません。

しかし

張力は

連続しています。

だから

足底腱膜炎の人が

首まで硬い。

という患者がいます。


Passive Support Chainとの共通点

ここで

私は

面白いことに気付きました。

前章まで

説明してきた

Passive Support Chain

筋膜ライン。

ほとんど

同じ方向へ

張力が流れています。

つまり

筋肉が休み始めると

今度は

筋膜や

靱帯が

全身で

荷重を受け始めます。

だから

一か所だけ治療しても

戻る。


Force Closure と Form Closure

ここで

仙腸関節を考えます。

これは

Diane LeeやVleemingらが提唱した概念です。

仙腸関節は

二つの力で

安定しています。


Form Closure

骨の形だけで

安定。

例えば

レゴブロック。

形で

外れません。


Force Closure

筋肉

靱帯

筋膜

これらが

押し付けます。

つまり

張力です。


ここで

Force Closureが弱くなる。

Passiveへ依存。

さらに筋肉使わない。

もっとForce Closure低下。

この悪循環になります。


「姿勢を良くしてください」が難しい理由

ここまで理解すると

なぜ

患者さんが

姿勢を直せないか

分かります。

例えば

胸だけ張る。

すると

腰は反ります。

腰だけ丸める。

すると

頭が前へ出ます。

頭だけ引く。

すると

膝が曲がります。

つまり

身体は

全部つながっています。

一か所だけ変えると

他が代償します。


私が臨床で最も重視する評価

ここ数年で

私の評価方法は

大きく変わりました。

昔は

痛い場所を見ていました。

今は

違います。

私は

まず

「この人は、どこでパッシブサポートへ荷重を逃がしているか?」

を探します。

例えば

頭は

項靱帯。

腰は

椎間関節。

股関節は

腸骨大腿靱帯。

膝は

後方関節包。

足は

足底腱膜。

こうやって

身体全体の

荷重の逃げ道を見ます。

すると

痛みの場所より

ずっと多くのことが

見えてきます。


一つ、私の仮説があります

ここからは完全に私の考察です。

まだ論文になっている概念ではありません。

私は

姿勢とは

「重力をどの組織へ逃がすかを決めるシステム」

だと思っています。

つまり

人間は

重力を消しているのではなく、

どの組織に負担を分配するか

を毎秒決めています。

理想は

筋肉

筋肉

リズム良く

荷重が変わること。

しかし

慢性痛の患者さんでは

靱帯

↓

靱帯

↓

靱帯

↓

靱帯

になっています。

だから

どこか一つではなく

全部痛くなる。


ここで一つ疑問が残る

では、

脳は

どうやって

「今日はここへ荷重を逃がそう」

と決めているのでしょうか。

実は

まだ説明していないものがあります。

それが

呼吸です。

私は

呼吸こそ

姿勢制御最大の入力だと思っています。

なぜなら

横隔膜は

呼吸筋であると同時に

体幹安定筋でもあるからです。

そして

呼吸が変わるだけで

腹圧

胸郭

頚部

骨盤

股関節

足部

まで

全部変わります。


次章は、このシリーズ最大の山場です

次回は

「呼吸は姿勢を作っている」

です。

ここでは

  • 横隔膜
  • 腹横筋
  • 骨盤底筋
  • 多裂筋
  • 腹圧(IAP)
  • Zone of Apposition(ZOA)
  • 呼吸補助筋
  • 息を吸うだけで肩が上がる理由
  • なぜ首こりの人は呼吸が浅いのか
  • なぜ腰痛の人は横隔膜がうまく働かないのか

まで掘り下げます。