2026.09.02

歩行分析とは?「歩き方」から身体の問題を読み解く方法を深く解説

高齢者の歩き方を横から観察して歩行分析をしているイラスト

歩行分析とは、単に「歩く姿勢がきれいか」を見るものではありません。

歩行では、足関節・膝関節・股関節・骨盤・体幹・上肢が連動しながら、体重を支え、身体を前へ運び、次の一歩につなげています。

そのため歩行を見るときは、

①どこで体重を受け止めているか
②片脚で身体を支えられているか
③身体を前へ進められているか
④足を振り出せているか
⑤左右差や代償が起きていないか

という視点が重要です。

そして、歩き方に問題があったとしても、その場所が原因とは限りません。

例えば歩行中に骨盤が左右へ大きく動いていても、原因は骨盤そのものではなく、股関節外転筋の機能低下、足部の支持性、痛み、関節可動域、バランス能力などにある可能性があります。

歩行分析で大切なのは、異常な歩き方を見つけることではなく、

「なぜ、その人はその歩き方を選んでいるのか?」

を考えることです。


そもそも「歩く」とはどんな運動なのか?

私たちは普段、ほとんど意識せず歩いています。

しかし歩行は、かなり複雑な運動です。

一歩ごとに、

体重を受け止める

片脚で身体を支える

身体を前へ移動させる

反対側の脚を振り出す

次の足を接地する

という動きを繰り返しています。

しかも、身体は完全に静止しているわけではありません。

前へ移動し続ける身体を、筋肉・関節・感覚・神経系が細かくコントロールしています。

歩行とは、

「移動しながらバランスを取り続ける運動」

と考えると理解しやすくなります。


歩行周期を理解すると歩行が見えるようになる

歩行分析を理解するには、まず**歩行周期(gait cycle)**を知る必要があります。

歩行周期とは、

片方の踵が地面についてから、その踵が再び地面につくまで

の一連の流れです。

大きく、

立脚期(stance phase)

足が地面についている時間

遊脚期(swing phase)

足が地面から離れて前へ振り出される時間

に分けられます。

一般的な快適歩行では、およそ

立脚期:約60%
遊脚期:約40%

です。

さらに両足が地面についている両脚支持期があります。

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歩行周期はさらに8つに分けられる

臨床ではRancho Los Amigosの分類がよく使われます。

① Initial Contact:初期接地

足が地面に触れる瞬間です。

一般的な歩行では踵付近から接地します。

この瞬間の目的は、

「これから体重を受け止める準備をすること」

です。

ここでは、

股関節
膝関節
足関節

が適切な位置にあることが重要です。


② Loading Response:荷重応答期

接地した脚へ体重が移っていきます。

歩行分析では非常に重要な場面です。

なぜなら、

身体が落下してくる力を受け止める

必要があるからです。

膝は少し曲がり、衝撃を吸収します。

足関節周囲では、足が急激に床へ落ちないように筋肉が働きます。

つまりここでは、

「衝撃吸収」と「体重支持」

が重要になります。


筋肉は縮むだけではない

歩行分析を理解するうえで重要なのが遠心性収縮です。

例えば足が接地した直後。

前脛骨筋などは、足部が床へ急激に落ちるのをコントロールします。

筋肉が働きながら引き伸ばされる。

これが遠心性収縮です。

膝でも同じです。

大腿四頭筋は、膝が必要以上に崩れないようにコントロールします。

つまり歩行では、

筋肉=身体を動かす

だけではなく、

筋肉=身体が崩れる速度を調整する

という役割があります。

これは非常に重要です。


③ Mid Stance:立脚中期

身体が支持脚の上を通過していく時期です。

ここでは、

片脚で身体を支える能力

が必要になります。

例えば右脚で立っているとします。

左脚は地面から離れています。

このとき右股関節周囲、特に中殿筋などの股関節外転筋群が骨盤の制御に関わります。

機能が不足すると、反対側の骨盤が下がるような動きが現れることがあります。

いわゆるトレンデレンブルグ徴候・歩行につながるパターンです。

ただし、

骨盤が下がった=中殿筋が弱い

と即断してはいけません。

痛み、股関節構造、運動制御、足部、体幹など、別の要因も考える必要があります。


④ Terminal Stance:立脚終期

身体が支持脚より前へ進んでいきます。

踵が上がり、身体を次の一歩へつなげる場面です。

ここで重要なのが、

股関節伸展

足関節背屈

です。

身体が足の上を前方へ通過するためには、足関節には一定の背屈が必要になります。

もし背屈が不足していたらどうなるでしょう?

身体は別の方法を探します。

例えば、

踵が早く上がる
足部が外側へ向く
足部の動きが増える
歩幅を小さくする

などです。

これが代償です。


代償は悪いものなのか?

ここが歩行分析で非常に重要です。

答えは、

必ずしも悪くありません。

例えば足関節が硬い人が歩くために、足を少し外へ向ける。

これは身体が、

「この足首ではそのまま前に進めないから、別の方法で進もう」

と選択している可能性があります。

つまり代償は、

身体が目的を達成するための戦略

とも考えられます。

問題なのは、

その代償が必要以上に大きい
毎回同じ組織へ負担が集中する
痛みや機能低下につながっている

場合です。

だから、

代償を見つける → すぐ修正

ではありません。

まず、

「なぜその代償が必要なのか?」

を探します。


⑤ Pre Swing:前遊脚期

反対側の足が地面につき、支持していた脚の荷重が抜けていきます。

ここから脚を前へ振り出す準備に入ります。

足関節は底屈方向へ動き、膝も曲がり始めます。

ここで大切なのは、

立脚から遊脚へスムーズに切り替えられるか

です。


⑥ Initial Swing:遊脚初期

足が地面から離れ、前へ振り出されます。

ここでは、

股関節屈曲
膝関節屈曲
足関節背屈

などが組み合わさります。

重要なのは、

つま先を床に引っかけないこと。

例えば足関節背屈が不足すると、つま先が床へ近づきます。

すると身体は、

膝を高く上げる
股関節を強く曲げる
骨盤を引き上げる
脚を外側から回す

などの代償を使うことがあります。


⑦ Mid Swing:遊脚中期

脚が身体の横を通過し、さらに前方へ進みます。

このときも、

足部を床から離したまま運ぶ

必要があります。

高齢者の歩行では、足が十分に上がらず、

すり足

のようになることがあります。

しかし、

「すり足だから脚をもっと上げましょう」

だけでは不十分です。

原因が、

足関節?

膝?

股関節?

筋力?

バランスへの不安?

痛み?

神経系?

なのかを評価する必要があります。


⑧ Terminal Swing:遊脚終期

脚が前まで振り出され、次の接地を準備します。

膝は伸びていきます。

ハムストリングスなどは、前へ振り出された下腿が勢いよく伸びすぎないように制御します。

そして再び、

Initial Contact

へ戻ります。

この一連の流れが、左右交互に繰り返されることで歩行になります。


歩行分析では「関節」だけ見ない

歩行を見ると、

足首

股関節

に目が行きやすいです。

しかし人間は脚だけで歩いているわけではありません。

足部
足関節

股関節
骨盤
体幹
胸郭

まで連動しています。

さらに、

視覚
前庭感覚
固有感覚
神経系

も関係しています。

だから歩行は、全身評価として非常に情報量が多い動作なのです。


なぜ歩くと腕を振るのか?

歩行では右脚が前へ出ると、一般的には左腕が前へ出ます。

これは単なる癖ではありません。

骨盤と胸郭には歩行中に回旋が生じます。

腕振りは、身体全体の角運動量や回旋を調節し、歩行の効率や安定性に関係します。

そのため、

「腕を振っていない」

こと自体を異常と決めつけるのではなく、

なぜ振らないのか?

胸郭が動かない?

肩が痛い?

歩行速度が遅い?

神経学的な問題?

などを考えます。


歩行分析で見るべき5つのポイント

細かい関節角度を全部覚える前に、まずこの5つを見ると歩行が分かりやすくなります。

① 支持できているか

片脚になったとき、

身体を安定して支えられているか?

骨盤が大きく動く。

体幹が大きく傾く。

支持時間が極端に短い。

こうした場合は、

痛み
筋力
バランス
関節機能

などを考えます。


② 衝撃を吸収できているか

足が着いた瞬間に、

ドン!

と硬く接地していないか。

膝や足関節を使って滑らかに荷重できているかを見ます。


③ 身体が支持脚の上を通過できているか

ここでは特に、

足関節背屈
股関節伸展

などが重要になります。

身体が前へ進めないと、別の場所で代償が起こります。


④ 脚を振り出せているか

つま先が床に引っかからず、次の一歩へ脚を運べているか。

股関節・膝・足関節

を組み合わせて見ます。


⑤ 左右差が大きくないか

歩幅。

立脚時間。

骨盤。

体幹。

腕振り。

足部。

左右で違いがないかを確認します。

ただし、

左右差=悪

ではありません。

人間は完全な左右対称ではないからです。

重要なのは、

その左右差に意味があるか

です。


「歩幅が狭い」だけでも原因はたくさんある

例えば高齢者で歩幅が狭い。

これだけなら原因は一つではありません。

股関節伸展不足

かもしれません。

足関節背屈不足

かもしれません。

筋力低下

かもしれません。

バランスへの不安

かもしれません。

転倒恐怖

かもしれません。

痛み

かもしれません。

あるいは、

歩行速度そのものが遅い

から歩幅が小さいだけかもしれません。

だから、

歩き方を見ただけで原因を決めない

ことが重要です。


歩行分析は「仮説を立てる検査」

ここを一番伝えたいです。

歩行を見て、

「右の立脚中期で体幹が右へ傾く」

とします。

そこで、

右中殿筋が弱い!

と決めるのではありません。

まず仮説を立てます。

仮説①
右股関節外転筋の機能不足?

仮説②
右股関節が痛いから荷重を避けている?

仮説③
足部で支持できない?

仮説④
体幹を傾けることで股関節への要求を減らしている?

ここから、

筋力
可動域
疼痛
片脚立位
足部
動作

などを検査します。

つまり、

歩行観察

仮説

個別評価

介入

再び歩行を見る

という流れです。


「歩き方を直す」より「歩き方が変わる身体を作る」

例えば患者さんに、

「骨盤をまっすぐにしてください」

「足を正面に向けてください」

「もっと大股で歩いてください」

と言えば、一時的に歩き方を変えられることがあります。

でも、その人に必要な、

可動域
筋力
安定性
感覚
運動制御

がなければ、すぐ元に戻ります。

身体には、その歩き方をしている理由があるからです。

だから、

見た目だけ修正する

のではなく、

その歩き方を必要としている原因を変える

ことが重要です。


あかつき鍼灸整骨院での歩行の考え方

例えば歩行中に、ある筋肉が強く緊張しているとします。

そこで、

「硬いから緩める」

だけでは終わりません。

考えるのは、

なぜこの筋肉が頑張らなければならないのか?

です。

本来働くべき筋肉が弱い。

関節が動かない。

片脚で支えられない。

痛みを避けている。

バランスが不安。

そうした問題を補うために、別の筋肉が頑張っている可能性があります。

そのため当院では、

過剰に働いて硬くなっている筋肉は「緩める」

一方、

弱くなっている・うまく使えていない筋肉には「運動療法」

を行い、歩行を再評価します。


高齢者の歩行分析では「速度」も重要

見た目だけでなく、数値も使います。

代表的なのが歩行速度です。

計算はシンプルで、

歩行速度=歩いた距離÷時間

です。

例えば4mを5秒なら、

4÷5=0.8m/秒

となります。

歩行速度は高齢者の身体機能を把握する非常に有用な指標です。

ただし、距離、加速区間、通常歩行か最大歩行かなどで結果が変わるため、同じ条件で測定することが重要です。

訪問など4mを確保できない環境では、無理に測定する必要はありません。


歩行を見るなら「疲れてから」も面白い

最初の10歩はきれい。

でも少し歩くと、

歩幅が狭くなる
足が上がらなくなる
体幹が傾く
ふらつく

という人もいます。

これは非常に重要な情報です。

つまり、

「できる能力」はあるけれど「維持する能力」が不足している

可能性があります。

筋力だけでなく、

筋持久力
全身持久力
神経・運動制御
疲労

などを考える必要があります。

一回できるかではなく、

繰り返しても維持できるか。

これは高齢者の歩行を見るうえで非常に重要な視点です。


歩行分析で大切なのは「正常からのズレ探し」ではない

教科書では正常歩行を学びます。

もちろん必要です。

しかし実際の臨床では、

正常歩行に近づけること自体

が最終目的ではありません。

大切なのは、

安全に歩けるか
痛みなく歩けるか
必要な距離を歩けるか
疲れても安定しているか
本人が行きたい場所へ行けるか

です。

多少左右差があっても、痛みなく安全に生活できているなら、その歩き方がその人にとって有効な戦略である場合もあります。


まとめ|歩行分析は「なぜその歩き方になっているか」を考える

歩行分析では、

足がどう着くか

だけを見るのではありません。

荷重を受け止める

片脚で支える

身体を前へ運ぶ

脚を振り出す

次の一歩へつなげる

という流れを見ます。

そして異常な動きを見つけたら、

硬いから?
弱いから?
痛いから?
不安定だから?
感覚の問題?
それとも必要な代償?

と考えます。

つまり、

歩行分析とは「悪い歩き方を探す作業」ではありません。

その人の身体が、

「なぜその歩き方を選んでいるのか」

を読み解く作業です。

この視点を持つと、歩行から得られる情報は一気に増えてきます。


FAQ

Q. 歩き方を見れば、どこの筋肉が弱いか分かりますか?

歩行から弱い筋肉を推測することはできますが、歩行だけで断定することはできません。痛み、関節可動域、バランス、運動制御などでも同じような歩行が現れるため、個別検査と組み合わせます。

Q. 歩くときは踵から着いた方がいいですか?

一般的な歩行では踵付近から接地することが多いですが、すべての人に「踵から着け」と指導すればよいわけではありません。歩行速度、疾患、足部機能などを含めて考える必要があります。

Q. 高齢者のすり足は筋力低下が原因ですか?

筋力低下は原因の一つですが、それだけではありません。足関節背屈、膝・股関節の動き、バランス、痛み、神経系、転倒への不安なども確認する必要があります。

Q. 歩行の左右差は治した方がいいですか?

左右差だけで治療対象とは判断しません。痛み、転倒リスク、歩行効率、生活上の問題などにつながっているかを確認することが重要です。

Q. 歩行分析だけで治療内容を決められますか?

歩行分析は原因を断定する検査というより、仮説を立てるための評価として有用です。歩行観察から仮説を立て、筋力・可動域・疼痛・バランスなどを評価し、治療後に再び歩行を確認する流れが重要です。