第7章
なぜ人はPassive Supportへ依存するのか
Panjabiの脊椎安定化理論から考える
もし私が
姿勢学で最も重要な論文は?
と聞かれたら、
間違いなく
Manohar Panjabi
を挙げます。
1992年に発表された
The Stabilizing System of the Spine
です。
現在でも世界中で引用され続けています。
実は、
私たちが当たり前に使っている
「体幹安定性」
という考え方も
この理論が基礎になっています。
脊柱は何で支えられているのか
昔は
「筋肉で支える。」
これだけでした。
しかし
Panjabiは
違う考え方をしました。
脊柱を支えるのは三つ
① Passive System
② Active System
③ Neural System
この三つです。
① Passive System
つまり
骨
椎間板
靱帯
関節包
筋膜
などです。
特徴は
自分では動けません。
しかし
伸ばされると
抵抗します。
まさに
ゴムです。
② Active System
筋肉です。
例えば
多裂筋
腹横筋
脊柱起立筋
横隔膜
骨盤底筋
など。
ここは
自ら収縮できます。
③ Neural System
ここが
意外と見落とされます。
脳
脊髄
固有感覚
前庭
視覚
全部です。
つまり
「どの筋肉をどれだけ使うか」
決めている司令塔です。
三つは独立していない
ここが
Panjabi最大の発見です。
例えば
靱帯が伸びる。
すると
機械受容器が反応します。
↓
神経へ情報。
↓
筋肉が収縮。
つまり
Passive
↓
Neural
↓
Active
になります。
逆もあります。
筋肉が疲れる。
↓
Passiveへ依存。
つまり
全部つながっています。
私が思う「第四のシステム」
ここからは
論文ではありません。
私の考えです。
Panjabi理論を臨床で使っていると
どうしても
説明できない患者さんがいます。
例えば
筋力は十分。
MRIも問題なし。
なのに
立ち方だけが
極端にスウェイバック。
ここで思ったのです。
問題は
筋肉でも
靱帯でも
神経でもなく
脳が選択している姿勢戦略
なのではないか。
私はこれを
Postural Strategy
と考えています。
脳は何を最優先するのか
患者さんは
よく言います。
「痛くない姿勢で立っています。」
これは
半分正しい。
しかし
脳は
もっと重要なことを考えています。
それは
転ばないこと。
そして
エネルギーを使わないこと。
痛みは
その後です。
つまり
多少痛くても
省エネなら
その姿勢を選びます。
例えばスウェイバック
最初は
筋肉で立ちます。
少し疲れる。
↓
骨盤を前へ出す。
↓
靱帯が支える。
↓
楽。
↓
毎日やる。
↓
脳が覚える。
↓
無意識になる。
ここが重要です。
姿勢は癖ではない
患者さんは
「姿勢の癖ですね。」
と言われます。
しかし
私は
少し違うと思っています。
癖ではなく
運動学習
です。
脳は
何万回も
同じ姿勢を選びます。
すると
小脳
基底核
運動野
これらが
「これが普通」
と記憶します。
つまり
姿勢は
プログラムになります。
だから意識しても戻る
患者さんは
頑張ります。
胸を張る。
↓
10秒。
↓
元へ戻る。
これは
意思が弱いからではありません。
脳のプログラムが
元へ戻しているからです。
Motor Program
歩く。
字を書く。
箸を使う。
全部
Motor Programです。
姿勢も
同じです。
だから
一日だけ
姿勢を正しても
変わりません。
運動療法の本当の意味
ここが
私は一番重要だと思っています。
運動療法は
筋トレではありません。
もちろん
筋力は必要です。
しかし
もっと重要なのは
脳を書き換えること
です。
つまり
Motor Learningです。
なぜ再発するのか
例えば
整体で
筋肉を緩めます。
その日は
姿勢が良い。
しかし
翌日
元へ戻る。
患者さんは
「また戻りました。」
と言います。
当然です。
脳は
古いプログラムしか
知りません。
つまり
新しい姿勢を
維持できません。
だから施術だけでは終わらない
ここで
あかつき鍼灸整骨院の考え方と
一致します。
私は以前から
「硬い筋肉は緩めるだけでは足りない」
と思っていました。
この理論を学ぶほど
その考えは強くなりました。
硬い筋肉を緩めることは、
Passive Supportへ依存した結果として生じた”代償”を一度リセットする作業です。
しかし、その後に何もしなければ、
脳は再び「以前と同じ姿勢戦略」を選びます。
だからこそ、
弱くなった筋肉を鍛えるというより、
**”その筋肉を日常生活で自然に使えるよう再学習すること”**が重要になります。
ここで一つ疑問が生まれる
では、
脳は
どの情報を見て姿勢を決めているのでしょうか?
実は
筋肉だけではありません。
脳は毎秒、
- 足の裏
- 関節包
- 靱帯
- 皮膚
- 視覚
- 前庭(三半規管)
- 首の深層筋
などから膨大な情報を受け取り、
「今どこに身体があるのか」を推定しています。
つまり、
姿勢とは筋力だけで決まるものではなく、
感覚(Sensory Input)と運動(Motor Output)の対話なのです。
次章はいよいよ神経学です
ここから先は、このシリーズの核心に入ります。
次回は
「なぜ靱帯が伸びると筋肉は働かなくなるのか?」
です。
- ルフィニ終末
- パチニ小体
- ゴルジ様受容器
- 自由神経終末
- 靱帯‐筋反射(Ligamento-Muscular Reflex)
- Arthrogenic Muscle Inhibition(AMI:関節原性筋抑制)
- γ運動ニューロン
- 固有感覚と姿勢制御
まで踏み込みます。
ここが理解できると、
「硬い筋肉をほぐす」「弱い筋肉を鍛える」という発想だけでは説明できない、なぜ”働かない筋肉”が生まれるのかという臨床の本質が見えてきます。




